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【記者解説】国、協議の約束ほご 民意無視、将来に禍根 辺野古新基地 大浦湾側の工事着手


【記者解説】国、協議の約束ほご 民意無視、将来に禍根 辺野古新基地 大浦湾側の工事着手 大浦湾側の資材置き場(ヤード)設置予定地で、石材を投下する重機(手前)=10日午後0時27分、名護市(小型無人機で大城直也撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 沖田 有吾

 沖縄防衛局は10日、名護市辺野古の大浦湾に設置を予定している海上資材置き場(ヤード)予定地に石材を投下し、辺野古新基地の大浦湾側の工事に着手した。留意事項に基づく事前協議が始まってもいない中での着手からは、代執行による承認を「錦の御旗」に国の論理を押し通す姿がより一層鮮明となった。

 難工事ゆえに今後も紆余曲折(うよきょくせつ)が想定される新基地建設だが、国が県を「敵視」するかのように民意を無視してしまえば、必ず禍根を残す。

 県は昨年末に設計変更申請の承認が代執行されたことを受け、大浦湾側の護岸工事の実施設計と環境保全対策の協議書について事前協議に応じる方針を固めていた。しかし国は海上ヤードについて「本協議の対象外」(林芳正官房長官)という認識を示し、協議が始まらない段階での着手に踏み切った。

 対象かどうか「確認をとりたい」(玉城デニー知事)とした県の対応は遅さも否めないが、事前協議で工事全体を国と県双方が俯瞰(ふかん)した上で詳細な審査が行われることは、安全性や環境保全に重要な意味を持つ。工事を速やかに進めたいとしても、決してないがしろにして良いものではない。県と国で協議の対象や開始時期について認識がずれているのならば事業主体として国はその認識をすり合わせることが必要となる。

 事前協議は、2013年の埋め立て承認の際に交わされた留意事項に基づく。法的な拘束力はないとは言え、行政同士が交わした「重い約束事」(県幹部)だ。だが、国は15年、協議を一方的に打ち切って工事を強行した経緯がある。当時から今も続く国の強硬な姿勢への不信感は、払拭どころかますます強まってしまっている。

 埋め立て完了までは9年3カ月、米軍が使用を開始し普天間返還の前提条件が整うまでには最短で12年という長い期間を要する。政府が事業の目的に掲げる「一日も早い普天間の危険性除去」の実現は遠い。

 今後予想される別の設計変更申請や事前協議などの必要な審査、手続きに時間を使う県に、返還遅れの責任を転嫁することは許されない。

 (沖田有吾)