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異形の魚群の正体は? 戦没20万人余の無念、沖縄から本土へ <アニメは沖縄の夢を見るか>(6)


この記事を書いた人 アバター画像 琉球新報社
挿絵・吉川由季恵

 伊藤潤二のマンガを原作とするOVA「ギョ!」(2012)のヒロイン・華織は、大学の卒業旅行で沖縄を訪れ、婚約者・忠の叔父が所有する那覇の別荘で過ごしていた。奔放なエリカと地味なアキという2人の同級生が一緒だ。やがて別荘にひどい臭気が漂い、鋭く尖った脚を持つ魚が現れる。さらにサメ型の巨大歩行魚が襲いかかり、地元のナンパ男2人組を招き入れていたエリカが足を刺された。

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 魚の脚は腹に装着された歩行器なのだが、その姿は菊地秀行原作のアニメ「妖獣都市」(1987)に出てくる蜘蛛女を連想させる。やがてウィルスに感染したエリカの身体が風船のように膨らみ、腐臭を放ち始める。彼女はアキに助けを求めるが、アキは散々自分をばかにしてきたエリカの惨めな姿を嘲(あざわら)った。歩行魚の大群が上陸した那覇には外出禁止令が出され、武装した自衛隊が展開する。リアルに描かれた県庁前広場では、異形の魚に向かって自衛隊員の機関銃が火を噴き、沖縄は再び戦場と化すのだ。一方、東京では忠の身に何やら異変が起きる。

 華織は1人で帰京するが、歩行魚の群は東京にも上陸してパニックを引き起こす。那覇からの機中で知り合ったフリーカメラマンの白河が、忠の行方を探す華織に同行した。歩行魚の手がかりを知る謎の科学者・小柳教授は、忠の叔父だったのだ。自宅のパソコンにあった映像の中で小柳は、歩行魚の発生が太平洋戦争中の日本軍による細菌兵器研究に起因する可能性を示唆していた。そして自宅地下の実験室には、腐臭ガスで膨張した忠の無残な姿があった…。

 日本軍が実際に毒ガスや細菌兵器を開発していたことは周知の事実だ。瀬戸内海に浮かぶ大久野島は昭和初期から陸軍の毒ガス工場が置かれたため、地図から抹消されていた。その一方で戦後の沖縄には米軍がサリンやVXガスを極秘に持ち込み、漏えい事故も起きている。手塚治虫は「MW」というマンガの中で、沖ノ真船島を舞台に毒ガスの漏えいを描いたが、そのモデルは明らかに在沖米軍による毒ガス貯蔵だ。

 「ギョ!」では日本軍の細菌兵器開発拠点が沖縄の無人島に設定されたことで、戦禍に巻き込まれた沖縄県民、故郷から遠く離れた沖縄で犬死にした下級兵士、異国の島で倒れた米兵ら、沖縄戦で亡くなった20万人余の無念や恨み、望郷が魚群と一体化しながら本土へ、東京へと北上してゆくのではないか。初代ゴジラがサイパン玉砕や硫黄島の激戦で散った命、核実験による被害者たちの怨念を背負って小笠原の大戸島に現れ、そこからかつての帝都を目指したように。

(岡山大学大学院非常勤講師)