県知事選投開票日の11日、下地幹郎氏(61)を支える陣営の幹部は投票率を見てうなだれた。「泡沫(ほうまつ)候補じゃないんだから」。本来「三つどもえ」の構図なら投票率は上がるはずだが、過去2番目の低さだった。得票自体も2014年の知事選で獲得した約6万9千票を下回った。地元の宮古島市でも最下位だった。
下地氏は20年に日本維新の会を除名され、翌21年、無所属で臨んだ衆院選で落選した。直後に配っていた名刺の肩書きは「次期衆議院議員」。再び国政を目指すとの公算が大きかった。下地氏は知事選立候補を妨害されないための「戦略だった」と説明する。
突然の知事選出馬表明に佐喜真淳氏を推す自民党や支持者からは、保守票が分散するとの批判も渦巻いた。下地氏は選挙中、米軍普天間飛行場移設について現行計画を否定する部分が玉城デニー氏と同じ立場だとして「保守分裂」の印象を打ち消そうとしたが、短期間で拭い切れなかった。
選挙運動での人手不足は深刻だった。告示日は県内の各掲示板にポスターを貼る作業さえ難航。選挙後、下地氏の兄で大米建設会長の下地米蔵氏は電話口で後援会幹部に支援できなかったことを謝罪した。沖縄芝居役者の仲田幸子さんが支援を呼びかける声を録音し、県内の電話に掛けて音声を流すなど、組織の後ろ盾がない中で多様な手を繰り出したが、不発だった。
下地氏は今回の知事選を今後の活動に向けた「助走」と位置付ける。具体的な内容は明らかにしていないが、活動の場として念頭に置くのは、県知事か衆院議員のどちらかだと言う。後援会幹部は「知事選が本命だ」と話す。別の幹部は「とはいえ、衆院選が早まれば当然検討する」と語った。
自民関係者の一人は、下地氏の著書名を引用し「保守候補をけん制するために出馬する『クソガキの挑戦』が続くのではないか」と冷ややかな視線を送る。
衆院選に知事選と落選が続いた。今回の知事選で下地氏が獲得した5万3千票に対する評価は割れる。「組織票がない中でよく取った」という評価の一方「存在感を示すには足りなかった」という指摘もある。
下地氏を支える政治家の1人は「選挙は勝たなければだめ。人が離れていく」と憂う。後援会から足が遠のく人もおり「まずは足元の立て直しからだ」と語った。
下地氏が言う通り「助走」となるか、それとも「退潮」の始まりか。知事選の翌12日朝、下地氏は那覇市泊のいつもの交差点に立ち、マイクを握ると、今後の活動への意欲を語った。「次のステップに向けて戦略を練っていきたい。前に進む」
('22知事選取材班)
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