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【特別評論】この島には人が住んでいる うるま陸自訓練場計画反対集会 島袋良太(中部報道グループ長)


【特別評論】この島には人が住んでいる うるま陸自訓練場計画反対集会 島袋良太(中部報道グループ長) 舞台上のダンスの妙技に拍手を送る集会の参加者=20日午後5時4分、うるま市の石川会館(ジャン松元撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 島袋 良太

 何より先に言おう。私たち県民には、平穏な生活を守る権利がある。

 うるま市石川のゴルフ場跡地に陸上自衛隊訓練場を建設する計画に対し、地元旭区自治会が全会一致で反対を決議したのが今年1月。以来、住民組織である自治会を中心に反対運動は広がりを見せ、あらゆる政治的立場を超え、うるま市民が足並みをそろえて計画断念を求める集会が開かれるに至った。

 思い起こすのは2003年に米軍が金武町伊芸区の集落近くに都市型戦闘訓練施設を建設する計画を表明し、住民が猛反発した問題だ。保守系だった当時の稲嶺恵一知事も鉢巻きをし、超党派で開催された県民抗議集会で拳を上げた。

 都市型訓練施設は一時的に供用されたが、最終的には住宅地と離れた場所に移設された。石川の住民も当時、隣町の金武町へと応援に駆け付けたという。今回の集会には金武町の区長や住民たちの姿もあった。

自衛隊訓練場整備計画の断念を求め、がんばろう三唱で気勢をあげる集会参加者ら(又吉康秀撮影)

 うるま市石川の訓練場整備計画も、市の全自治会長がそろって白紙撤回を求める中、賛否の表明を躊躇(ちゅうちょ)していた保守系の中村正人市長や、政権与党である自民党の県連も国に白紙撤回を求めるに至った。裏を返せば、これほど政治的立場を超えて反対を招く問題含みの計画ということだ。

 無理もない。この地域は旧石川市が人口減対策として肝いりで宅地造成し、ほぼ原価で住民に供給した場所だ。景観や交通の便も良く、県立石川青少年の家があり、子どもたちが年中キャンプや山登りを楽しむ。突然、軍事施設がそばにできるのは「いくらなんでも」という場所である。

 防衛省は計画の白紙撤回を否定し、土地取得後の利用計画を「見直す」と地元住民への説得材料を提示している。だが住民側はいずれは訓練場へと“先祖返り”するだろうと不信感を募らせ、白紙撤回を求めている。

 不信の背景は何だろうか。この国の国防政策は「なし崩し」を繰り返し、歯止めを失ってきた。安保法制による集団的自衛権の行使解禁や、安保3文書による「専守防衛」の原則を塗り替えるような敵基地攻撃能力の新規保有。憲法改正という正当な手続きも経ず、原則を大転換してきた。

 一連の流れの中で今、南西諸島の急速な軍備強化が進み、今回の訓練場整備計画も浮上した。軍事利用はしないという琉球政府と日本政府の「覚書」が存在する下地島空港でさえ、政府は軍事利用に備えた「特定重要拠点」の候補に挙げるようになった。「約束」が意味をなさないのなら住民の警戒は必然だ。

 本島中部は今、「安保」による住民生活への圧迫が加速している。「例外措置」を4カ月連続で繰り返し、強行される嘉手納基地でのパラシュート降下訓練。事故原因の説明もないままのオスプレイの飛行再開。うるま市ではきょう、本島初となる陸自の地対艦ミサイル部隊が勝連分屯地で発足する。石川の陸自訓練場予定地も当初、ミサイル部隊の展開訓練でも利用される計画が示されていた。

 台頭する中国をけん制しようと躍起になる余り、住民の存在が抜け落ちていないか。ここまで地域に不信が根付いた以上、国は住民の訴えに耳を傾け、計画を白紙に戻すほかない。まず過重負担を背負わされてきた沖縄との向き合い方を見詰め直す方が先だ。この島には人が住んでいるのだ。

(島袋良太、中部報道グループ長)