「お盆に海に入ってはだめ」「足を引っ張られる」旧盆の言い伝えは本当?由来を解説してもらった 沖縄


「お盆に海に入ってはだめ」「足を引っ張られる」旧盆の言い伝えは本当?由来を解説してもらった 沖縄 海(イメージ)
この記事を書いた人 Avatar photo 呉俐君

 沖縄で「旧盆」はとても大切な年中行事。多くの地域で旧暦7月13日~15日の3日間に行われ、初日がご先祖様をお迎えするウンケー、そして中日(ナカヌヒー)、お見送りのウークイと続きます。

 仏壇にお供えするジューバク(重箱に詰めた料理と餅)や、ウチカビ(あの世のお金とされる銭形を打ち付けた紙)など、ご先祖様を家に迎え入れる準備で忙しいこの時期、お盆特有の「言い伝え」も飛び交います。

 例えば「お盆には海に入るな」「海に入ったら足を引っ張られるぞ」といったもの。沖縄県民なら誰でも一度は言われたことのあるこれらの言い伝えはどこから生まれたのでしょうか。沖縄の盆行事などに詳しい県文化財保護審議会専門委員の稲福政斉さんにひもといてもらいました。

(聞き手・呉俐君)

道ジュネーで、勇壮なバチさばきで沿道の観客を楽しませる中の町青年会=沖縄市のコザゲート通り

ーなぜ旧盆の時期に「海に入ると足を引っ張られる」と言われるのか。「誰が」引っ張るのか

 「供養する子孫がいない霊、いわゆる『無縁仏』が寂しいので海に入る人を道連れにしようと引っ張るという説がある。あるいは海で亡くなった人が足を引っ張るという説もある。地域によって伝説も少しずつ変わる。『怖いもの』が引っ張るという説も存在する」

 「沖縄の人にとって、あの世は海の彼方にあると考えられている。海で亡くなった人に限らず、旧盆時期に霊がこの世に来るとき、海からやって来る。帰るときも海のかなたに帰っていくので、その通り道に生きている人がいたら、仲間だと思って連れて帰る、という説がある。これは沖縄の一つの特徴でもある」

海(資料写真)

 「旧盆の時期は霊が行き来しているところには行かないように、海に行くなと言うようになったとも考えられる。お盆は先祖の霊は子孫の家に帰っていくが、それ以外の霊もすべてこの世に帰ってくる。先祖以外の霊は行き先がないので、『海で人を引っ張る』『先祖様の食べものを横取りする』など災難をもたらすと考えられている」

ー「海に入ってはいけない」と言われる「旧盆の期間」はいつを指すのか

「旧歴7月13〜15日の3日間を指すところもあるが、旧暦の七夕からお盆入りというところもある。始まりははっきりしているが、終わりははっきりしない。終わりがはっきりしない理由として、海水浴のシーズンでなくなるから、という見方もあると思う」

「沖縄の人は、もともと七夕(旧暦7月7日)がお盆の始まりだと考えていた。ご先祖様に13日からお盆があることを伝えるために、墓掃除に行って案内をかける。旧暦7月7日以降は、広い意味でお盆期間に入る」

墓掃除(イメージ)

「旧暦を使っていた近代以前は、沖縄も他県も盆は旧暦7月の行事だった。新暦の採用以降、日本には新暦の盆、月遅れの盆、旧盆の3パターンが生じ、地域により盆の日取りが分かれた。現在、全国的には月遅れ盆(8月13〜16日)が主流で、沖縄全域が旧盆7月13〜15日までの3日間。16日まで行う地域もある。旧盆期間はこの3日間もしくは4日間を指すこともある」

ー他県でも同じような言い伝えがあるのか

 「本土でもお盆に海に入ったら、足を引っ張られるという言い伝えがある。旧盆の時期に、沖縄の海で遊んでいる県外からの観光客の姿を見ると、沖縄の人は心配な気持ちになる」

 「旧盆の時期、県外の人は沖縄の海で泳いでいても自分たちの盆時期ではないので関係がないと思っているかもしれない。ただ、県外の人はおそらく自分たちの盆時期には、自分たちが住む地域の海や川などで泳いでいないかもしれない」

ー科学的な根拠からはどうみるか

「盆行事を旧暦で執り行うと、満月の15日に当たる。満月のとき、大潮になり、潮の満ち引きが大きいので海の流れが早くなる。離岸流も起きやすくなる時期で流されやすい。昔の人は海で泳ぐ人が流されていく様子を見て、引っ張られていると考えるようになったのだろう」

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離岸流にあらがって泳ぐ名嘉記者(左)=5日、糸満市の大度浜海岸
離岸流にあらがって泳ぐ記者(左)=糸満市の大度浜海岸

「昔の人は科学的な根拠も分からず、さらにお盆の時期が重なっているので霊と結びつけて、盆の時期に海に入ると足を引っ張られるというようになったのだろう。お盆を過ぎたら、クラゲが出てくるので『海に行くな』という指摘もあり、霊の話と合わせて、『お盆の時期は海に入らないで』と注意喚起するようになったとも思われる」