>>最初から読む 安和ダンプ死傷事故に相次ぐ非難・中傷 市民ら「正念場」
死傷事故が起きた名護市の安和桟橋は、新基地建設が進む辺野古の反対側、西海岸にある。抗議活動が始まったのは2018年12月。県民投票を前に「辺野古新基地建設」の既成事実化を急ぐ国が、届け出の不備で使用できないはずの民間桟橋から土砂の搬出を始めたことがきっかけだ。県は国の行為を「違法」と断じ、抗議する市民が足を運ぶようになった。
「当初は混乱して、警察官にもすぐに止められた。『どうしたらいいのか』と聞いたら『歩行者優先だから、立ち止まらなければ規制はしません』と言われた」
5年半あまり、安和で抗議活動に取り組んできた女性は振り返る。それで定着したのが牛歩だ。「抗議者が出入り口の片道を歩いたら、ダンプを1台出す」「抗議者は運転手に手を挙げて合図をしてから歩き始める」
抗議する市民側と工事に携わる運転手側。お互いの立場を越え「暗黙のルール」が生まれた。「指導者もいない中、安全にも注意を払い、暑い日も寒い日も、ローテーションを組んで少ない人数で続けてきた」。本部町島ぐるみ会議の崎濱静子共同代表は集会で語った。普段は警察もいない。沖縄防衛局が主張する「危険・危害を及ぼす妨害行為」と、現場の日常には開きがあった。
そうした非暴力の抵抗の現場が変わったのが、国が今年1月、知事の権限を奪う「代執行」によって大浦湾側での埋め立てに踏み切った後だ。
市民や運転手によると、国が工事を急ぐ中、運転手への締め付けが厳しくなり、警備員によるダンプの強引な誘導が増えていたという。
「こんなことをしていたら、いつか…」。市民と運転手が口をそろえていた不安が現実になったのが、6月28日の事故だ。1台ずつ出すという「暗黙のルール」が破られ、危険な2台出しが行われた結果だった。
責任を抗議活動に押しつけようとする防衛局の対応には、ダンプ運転手からも疑問の声が上がる。その一人は「痛ましい事故によってウチナーンチュ同士が分断されているが、『暗黙のルール』に戻すことが一番の安全対策だ」と指摘する。事故の原因は、現場のカメラの映像だけでは捉えられない背景がある。
事故で重傷を負った女性は「戦争ほうき」などのメッセージが入った手縫いのブローチや手作りのパンを仲間に配り、「パンタクロース」の愛称で親しまれてきた。「未来の沖縄のために」と言って安和や辺野古へ通い続けてきた。
一時は重体だったが「骨は折れても心は折れない」と、10時間の手術を乗り切った。「たとえ車いすになっても行く」と新基地建設への抗議を続ける決意だ。戦争につながる動きを止めるまで。 (南彰)