1944年8月に那覇を出港した、疎開する学童らを乗せた船「対馬丸」が米軍に撃沈された事件から80年の節目に合わせ、生存者の証言などを基に検証したドキュメンタリー映画「満天の星」が完成した。出演した俳優の寿大聡さん(43)は、惨劇を生き延びた甲板員の孫に当たる。「祖父の証言を受け継ぐことで(事件の)風化にあらがう」と決意を新たにした。
事件から80年となる8月22日を前に、寿大さんと葦澤恒監督(41)が共同通信のオンライン取材に応じた。映画は84分間。22日には那覇市で「特別慰霊上映会」を開催、全国上映を来年見込む。
6年前に91歳で亡くなった寿大さんの祖父、中島高男さんは当時17歳。乳児や女性らをいかだに引き上げ、計8人で3日間漂流、旧日本海軍の船に救助された。戦後は証言活動に励み、沖縄で毎年8月に営まれる慰霊祭には欠かさず参列したが、身内の家族には多くを語らなかった。
「祖父の両脚には痛々しい傷痕があった。海水に長く漬かったことで脚の体毛は全て抜けていた」と寿大さんは振り返る。中学生の時に一度、体験を直接聞いた。「壮絶だった。つらい記憶を、祖父は力を振り絞って伝えてくれた」
2022年にロシアがウクライナに侵攻し「戦争は許されない。表現者なら発信しなければ」と覚悟した。葦澤さんと組み、同年5月に撮影を開始。生存者や研究者にインタビューし、撃沈された海域近くの鹿児島県悪石島や、対馬丸記念館(那覇市)などで撮影を重ねた。「戦争がなくならない現代社会から目を背けない」。ウクライナにも一緒に足を運び、戦争孤児の姿を映像に収めた。
葦澤さんも「体験者がゼロになる世界がそこまで来ている」と危機感を募らせる。「何の罪もない幼い命が犠牲になった戦争の実態を、映画を通じて伝えたい」。子どもでも見やすいように、イラストやアニメーションも取り入れた。
映画の題名は、寿大さんの祖父の手記から引用。そこには漂流中の述懐として「満天の星がいかだの行方を導くために現れてくれたような気がした。『生き抜くんだ』と自分に言い聞かせた」とつづられていた。
(共同通信)