太平洋戦争中の1944年に米潜水艦に撃沈され、学童ら1484人(氏名判明分)が犠牲となった対馬丸事件に関するドキュメンタリー映画「満天の星」の特別慰霊上映会が22日、那覇市のシネマパレットで開かれた。対馬丸元甲板員の中島高男さんの孫で、俳優兼プロデューサーの寿大聡さんらが舞台あいさつに登壇し「今作を全世界に届けたい」と語った。
寿大さんの祖父・中島さんは当時17歳。船が撃沈される中で乳児や女性らをいかだに引き上げ、3日間漂流した後、日本海軍の船に救助された。長年証言活動に努め、6年前に亡くなった。中学生の頃に初めて中島さんの体験を聞いた寿大さん。俳優になり、映画化を目指すも20年かなわなかった。ロシアのウクライナ侵攻で改めて戦争に向き合い、発信する覚悟を固めた。
映画では寿大さんが、中島さんや対馬丸事件の足跡を体験者へのインタビューなどでたどる。中島さんと同様に海でいかだに乗ったり、中島さんを寿大さんが演じたりする様子も伝えた。そこには「戦争を体験していない世代が語り部をやっていいのか」という葛藤があったと言う。祖父の思いに近づこうと演じることで「(対馬丸事件の)知識と祖父の記憶と感情がリンクした」と話す。
葦澤恒監督は「地獄を体験した人がいなくなる危機感がある。次の世代に向けて何ができるのかという一心で作った」と振り返る。寿大さんは「映画が世界平和の一助になれたら」と語った。
事件当時1歳3カ月で、中島さんに救助された鈴木初子さん(81)=沖縄市=も映画を鑑賞した。「映画を子どもや孫にも見てもらいたい」と話した。
映画は今後、海外の映画祭などに出品し、来年夏の公開を目指す。
(田吹遥子)