名護市辺野古の新基地建設工事に向け、沖縄防衛局は20日、名護市の大浦湾で設計変更に基づく護岸工事に着手した。国は本体部分の工事に踏み込んだ形だが、防衛省は大ごとにしないよう「淡々と」(同省関係者)進める姿勢を堅持した。一方、工事に疑問点がある県は、事前協議をほごにされた形となり、「協議が調っていないにもかかわらず、一方的に工事に着手した」(玉城デニー知事)と反発を強めている。新基地建設は新たな局面を迎えた。
防衛省は設計変更に基づく工事を1月に開始しており、1月と比べて今回の護岸着工を大きな節目と捉えていない。
1月には木原稔防衛相が報道陣の前で質問に答えたが、今回、防衛相は海外出張中で不在だった。別の形で積極的に発表することもなかった。ある政府関係者は「節目をつくらず淡々と進めていく。通過点だ」と語った。
協議調わない中での強行
「所要の準備が整ったため、8月20日に本件協議に係る工事に着手する」。防衛局は19日夕、事前協議のやりとりの中で県に工事着手を伝えた。これまでの回答文にはあった「質問を受ける」との趣旨の文言も消え、事実上の打ち切り通告だった。
事前協議は2013年12月に仲井真弘多元知事が政府の埋め立て申請を承認した際に付した「留意事項」で、防衛局に対して実施設計や環境保全対策について事前に県と協議するよう定めたことに基づいて実施される。
だが、その運用実態は、県との協議が調うまで行われた事例はなく、形骸化が進む。
今年1月に始まった海上ヤードの工事にあたって、県は環境保全面で「協議の対象になる」として協議を求め、調うまでの間は工事の中止を求めた。だが、国は海上ヤードは撤去予定であるとして「協議の対象外」だとして応じなかった。
今回着手したA護岸については国も事前協議に応じる姿勢をみせたものの、防衛局は6月「協議は調いつつある」として、8月1日の着手を県に通告。県は協議が調っていない中で着手予定日が一方的に示されたことは「遺憾」(玉城知事)として疑問視した。
工事に先立つくい打ち試験についても県は「通常工事の着手と見なす」として協議が調うまでは行わないよう求めていたが、防衛局は強行した。
サンゴ損傷、海水の濁り…弊害への“説明”は
そんな中、7月4日には、環境保全対象として移植を計画していた大型サンゴを自ら損傷させたことが発覚した。
同8日にはくい打ち試験現場を囲む汚濁防止膜を超えて海水の濁りが広がっている様子が市民団体によって確認されるなど、環境への影響も現れている。
濁りについてはいまだに原因などは説明されていない。工事に前のめりな国の姿勢の“弊害”は代執行以降、鮮明になっている。
辺野古新基地建設を巡り国はそもそも「政府の考え方を地元に丁寧に説明したい」と、ことあるごとに強調してきた。
だが、実際には県民の理解を得る説明が行われないばかりか、工事にあたって県と国が約束した留意事項に基づく事前協議すら途中で打ち切られることが当然のように行われている。
知事周辺の一人は「丁寧な説明が行われたことはない。県外のメディアは『丁寧に説明する』という言葉は報じても、その実態を問うことはない。『丁寧に説明する』という言葉自体が『政府は沖縄と向き合っている』として政府姿勢に理解を得るための、県外の人向けの欺瞞(ぎまん)でしかない」と批判した。
(知念征尚、與那原采恵、明真南斗)