米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、沖縄防衛局が条件を守らずに作業を強行したとして、県は30日、サンゴ移植の許可を撤回した。県は同日正午に行政指導したが、防衛局が「聞く耳を持たない」(県幹部)と判断。サンゴ保護のために緊急性があるとして、4時間後に許可撤回に踏み切った。県幹部は「国側の過去の発言などを吟味した上で判断した」と説明し、県の主張に利があると自信を見せる。
一方、県が移植許可を出してわずか2日後に撤回したことに、防衛省内に困惑が広がった。そもそも県の許可の期間は7月からだったとし「サンゴを採捕してもいいと許可しながら、7月は『採ってはだめ』とは、どういう意味なのか」と県の対応に不快感を示す。防衛省内は「次の対抗策」に向けて、検討に入った。
異例の措置
防衛局が移植作業を始めた「I地区」のサンゴは約830群体で、早ければ7日程度で作業が終わるとみられている。県は28日にサンゴ移植の許可を出した際、高水温期や台風が多い時期を避けることなどを条件としたが、防衛局は、県に明確な根拠を示さないまま「条件を守っている」と移植作業を強行。既に2日間、防衛局は移植作業をしており、単純計算で数百群体に手を付けている恐れもある。
撤回の判断後、玉城デニー知事は「作業が進むとサンゴの生残率低下が強く懸念され、直ちに作業を止める必要があった」と緊急性を強調した。県は緊急性があるとして30日正午ごろ、県水産課職員が直ちに作業を停止するよう求める行政指導文書を防衛局に提出。同日午後4時には水産課職員が撤回文書を嘉手納町の防衛局に直接持ち込む異例の措置を取った。
「撤回」の論理
県関係者は「29日に移植作業を始めた時点で県の条件に反していることは明白だった」と語る。県は30日朝から現場に職員を派遣したほか、サンゴ研究者らへの聞き取り作業をした上で県の論理を構築した。関係者によると、防衛局は移植許可の申請時、高水温期や台風の時期を避けるべきとした県の手順書にのっとって作業を行う意向を示していた。
これまでの裁判などで交わされた県と国の主張を慎重に吟味し、同日は辺野古沿岸で海水温のデータなども測り、現地の状況を確認したという。ある県幹部は「移植に関する県の条件は無理難題ではない。国は自ら主張していたことを守らなかった」と指摘した。
重大な局面へ
移植許可の撤回に対し、政府は法的措置で対抗する見通しで、いずれ法廷闘争に発展する公算だ。サンゴ類の移植を巡っては6日に県の敗訴が確定した最高裁判決は裁判官5人の全員一致ではなく、辺野古新基地建設に関する裁判で初めて県の主張を認める裁判官2人の意見が付いた。
県は8月後半にも地盤改良の設計変更を不承認する構えで、政府との攻防は重大な局面を迎える。県は「論理的に訴えれば、理解を得られる余地がある」(幹部)として司法闘争に自信を見いだしている。一方、政府関係者は衆院選や来年の知事選といった政治日程を見据え「緊張したやり取りが続く」と気を引き締めた。
(池田哲平、知念征尚、明真南斗)
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