玉城デニー知事が10日、沖縄の日本復帰50年の節目で「建議書」を岸田文雄首相に提出した。「5・15」の直前で実現した県と国とのトップ会談。過重な基地負担など沖縄の課題を全国に訴えたい県側の狙いと、式典に向けた「祝賀ムード」に水を差されたくない政府側の思惑が交錯した。
>>復帰50年、玉城知事が建議書提出 首相「受け止めたい」>>
「ぜひ辺野古の問題についても総理と私が対話する場を設けていただき、真摯に対話によって解決する方法を模索させていただきたい」
玉城知事は会談後の10日午後、岸田首相に“直訴”した内容を官邸で記者団に明かした。玉城知事によると、岸田首相は「県民との意思疎通を図り、思いを持って改めて建議書を読ませていただきます」と応じたが、「対話の場の設定」について明確な返答はなかったという。
■期待と不快感
玉城知事が手渡したのは「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書」。岸田首相が先の大戦で原子爆弾が投下された広島出身である点も踏まえ、玉城知事は「日本の総理として世界に平和を発信してもらえる本当にこの上ない方だと思う」と持ち上げ、首相が政治信条とする「聞く力」への期待をにじませた。
基地負担軽減担当相を兼務する松野博一官房長官も同席した会談の日程調整はぎりぎりまで難航した。正式決定したのは当日午前。県側は会談の模様の一部を報道陣に公開することも官邸に求めていたが、「許可は得られなかった」(県関係者)という。ある政府関係者は、「そこまでお付き合いする必要はないということだろう」と「歓迎」とはほど遠い政府内の空気を明かす。
会談は、2022年度から10年間の沖縄振興計画の基本方針が正式決定する政治日程とも重なった。政府側は、記念式典に向けた機運醸成を邪魔された格好で、関係者によると、閣僚の一人は「政治的なパフォーマンスだ」と不快感を示したという。
■扱いの違い
県側にも強引な手段に打って出ざるを得なかった事情がある。
第5次振計の基本方針の策定では、官房長官主宰で仲井真弘多元知事も参加する「沖縄政策協議会」が定期的に行われ、策定過程で県側の意見を聴取する場面は少なくなかった。
一方、今回の基本方針策定過程で同協議会は行われず、玉城知事が政府側との協議に参加する機会は限られていた。蚊帳の外に置かれ続ける玉城知事と、政府と蜜月だった仲井真元知事との扱いの違いは歴然だった。
政府側にはこれまで通り、玉城知事との接触を避けて辺野古問題で対立する「県と国」との距離の遠さを示す選択肢もあったが、これまでの政権とは一線を画す融和的な政治姿勢を示してきた岸田首相が強硬な態度を貫けば、自身の政治信条との整合性を問われかねない。
ある与党県議は「『聞く力』を掲げる首相が受け取ってくれてよかったのではないか」と皮肉った上で、「復帰から50年経った今も、建議書を政府に出さなければいけない状況を考えて欲しい」と訴えた。
(安里洋輔、塚崎昇平)
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