県と政府が共催し、沖縄と東京で開かれた15日の復帰50周年記念式典に出席した岸田文雄首相の式辞に誤情報が含まれている。岸田首相は沖縄の日本復帰について「戦争によって失われた『領土』を外交交渉で回復したことは史上まれ」と述べた。だが外務省北米局北米第1課は琉球新報の取材に「法的には沖縄は米国の領土になったことはない。施政権が一時的に米国にいき、それが沖縄返還で日本に戻った」との見解を示した。岸田首相の式辞は事実と異なる。
太平洋戦争に敗れた日本は1952年4月28日のサンフランシスコ講和条約発効に伴って「独立」した。同時に沖縄は日本から切り離された。
同条約第3条では、国連に信託統治を提案し承認されるまでの間、奄美以南の南西諸島と小笠原諸島などの領域・領海と住民に対する行政と立法、司法の全権を米国が行使できる権利を認めた。
国際政治に詳しい琉球大の我部政明名誉教授は「サンフランシスコ講和条約発効によって沖縄という日本の領土が米国に奪われたのではない。沖縄の主権を持つ日本がその地域の施政権を米国に認めたというのが正確だ」と指摘した。
外交史が専門の元関西学院大教授の豊下楢彦氏は「岸田首相の発言は、米国が領土不拡大方針に反して沖縄を奪って、後に返したと言っているに等しい」と話した。
岸田首相の式辞は、50年前の復帰記念式典で佐藤栄作首相(当時)が述べた式辞「戦争によって失われた領土を平和のうちに外交交渉で回復したことは史上きわめてまれ」を引用したものだ。
岸田首相は戦後歴代2位となる約4年8カ月間外相を務めた経験がある。さらに沖縄を支援する自民党議員でつくる「美ら島議員連盟」の会長を務める。
我部名誉教授は「50年前の言葉を借りて復帰の歴史的意義を強調し、お祝いムードを生みだしたかったのだろう。これ以上歴史が重要視される場はない中での発言で、お粗末な感があるが、大事に捉えることでもない」と述べた。 (梅田正覚、塚崎昇平)
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