名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブの周辺海域を埋め立て、滑走路を整備する辺野古新基地建設の計画。その海域には、わずか20平方キロメートルの範囲に、絶滅危惧種262種を含む5334種の生息が確認されている。
同海域は、科学者らでつくる非政府組織(NGO)が世界的にも重要な海域を指定する「ホープスポット」(希望の海)に選んでいる。世界的にも希有な生物多様性の宝庫として知られる貴重な自然環境だが、新基地建設事業で大きく破壊される可能性がある。
その兆候は、既に現れている。
絶滅が危惧される国指定の天然記念物、ジュゴンは工事開始前には本島北部の海域で3頭いることが継続的に確認されていた。だが、新基地建設のため作業船が頻繁に出入りするようになった2015年1月以降、大浦湾では1頭も確認されない状態が続く。
同時期には新基地建設工事の一環で、辺野古沿岸海域に大型コンクリートブロックが投下されており、その影響が指摘されている。
サンゴの保全策を巡っても疑問の声が上がる。
当初、国は承認時の環境保全図書に盛り込まれた保全措置に基づき、大浦湾側に生息する小型サンゴ類約8万4千群体の移植を計画していた。
だが、国はサンゴを移植を完了しないまま10日に海上ヤードの工事に着手した。
方針の変更は、昨年10月の環境監視等委員会で示されていた。沖縄防衛局は、一部護岸に着手しても「サンゴ類の生息環境は維持される」との予測を提示。委員からは特段の意見は出ず「サンゴには影響を与えないということが確認された」(防衛局担当者)ことが着手につながった。
こうした防衛局の説明に対し、辺野古・大浦湾でサンゴの調査を長年続けてきた日本自然保護協会主任の安部真理子氏は「サンゴの生態に影響のない工事などはない」と断言する。
サンゴは褐虫藻(かっちゅうそう)を共生させて光合成で栄養を得る。光が海中に当たらなくなると光合成ができなくなるため、水の濁りは死活問題だ。「台風や大雨の影響で水が濁る数週間ならなんとか生き延びるが、継続的な土砂の投入によるサンゴへの影響は計り知れない」と警鐘を鳴らす。
新基地建設を巡っては、18年にも絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ9群体の移植が実施された。移植から5年がたった昨年7月の段階で、生残が確認されたのは2群体のみ。うち1群体も「全体的に白化」とされ、生残が危ぶまれる状況だ。
防衛局は7群体の死滅の理由について「サンゴが寿命に達した」として移植の影響を否定。「レッドリストサンゴ類に対する環境保全措置は適切に実施された」と“自己評価”してみせる。
一方、県関係者は「9群体のうち7群体が死滅しており、明らかに失敗だ。サンゴ移植の難しさが改めて示された」と国の自己採点を疑問視した。
環境破壊は社会的・政治的な緊張や紛争の原因となりかねないことから、国際社会では安全保障の面からも重要課題と認識されつつあり、防衛省も基地内の緑化の推進などの取り組みを進めている。
ただ、辺野古新基地建設に関しては、貴重な自然環境の破壊が懸念されているにもかかわらず、国は工事を強行しており、環境を重視する施策との矛盾も生じている。
(知念征尚、慶田城七瀬)