2022年もあと少し。新型コロナウイルスからの回復の兆しが見え始めてきたものの、今年も地域で長年愛されてきた老舗やスーパーの閉店が相次いだ。一方、周囲の支えで閉店の危機から復活した店も。消えた店の明かり、ともり続ける明かり。今年を振り返ってみた。(慶田城七瀬)
閉店してから惜しむでは遅い
「本日は完売しました」。
午前11時の開店から約1時間後、店の入口に貼り紙をしてTwitterに投稿する。那覇市三原にある洋菓子店「アベニア」の店主、知花園子さんの日常の一コマだ。
開店とともにお客さんが相次ぎ、人気のバナナケーキを始めとする焼き菓子は正午を過ぎるころには完売する。家族や友人、知人に購入をお願いされたり贈り物にしたりするために、まとめて買い求める客が後を絶たない。
かつて「アベニア」は創業30年の老舗店だった。知花さんは、旧店舗の熱烈なファンで、その後アルバイトとしてお店を手伝うようになった。入居ビルが老朽化したために閉店の危機にあると知り、店の存続に向けてSNSで募金を呼び掛けた。集まった資金を基に今年10月に移転再開を果たし、初めての年末を迎える。
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日々お客さんに支えられながら、お店を続けることの大変さも実感している。
「閉店してから惜しむのでは遅い。続けてほしいお店には直接足を運んで応援してほしい。1人で毎日は通えなくても、みんながちょっとずつでも通えたら、続けられるお店もあると思う」と力を込めた。
「街の味」復活させたい
沖縄市中央パークアベニューでは、この夏、老朽化した建物のリフォームに勤しむ男性の姿があった。
昨年11月に惜しまれながら閉店した中華料理の「北京亭」を復活させようと奔走した仲本武史さんだ。地域の人々に親しまれた名店の「街の味」が失われていくことに危機感を覚え、クラウドファンディングを立ち上げて資金を集めた。新たな店舗での再開まで店主の仲本兼和さんを支え続けた。
新店舗は、当初7月開店の予定からは遅れたものの、12月3日に再スタートを切ってからは、待ちわびていたファンが名店の味を堪能しようと続々と来店している。
コロナ下で業績不振、建物の老朽化で続々と…
ファンの熱意で閉店の危機を乗り越えて再出発したお店もあるが、今年は老舗店舗の閉店が相次いだ。
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名物「焼きテビチ」で全国的にも有名だった那覇市栄町の「おでん東大」。9月下旬の突然の閉店に全国のファンから惜しむ声が相次いだ。店主死亡による閉店と報じられたが、閉店から約2カ月後、娘夫婦が殺害容疑で逮捕されるという報道もあり、師走の那覇に衝撃が走った。
新たな歴史刻み、人と人をつなぐ場に
再開が待ち望まれている場所もある。那覇のマチグワーの中心地として市民県民の胃袋を支える市場、第一牧志公設市場だ。 那覇市は新たな市場の来年3月19日開業を目指している。
旧市場の建物の老朽化により建て替えを進め、仮設市場に移転し営業を続けていたが、この2年はコロナ禍に苦しんだ。
粟国智光組合長によると、新しい施設への関心は高く、新規に入居したいという事業者からの問い合わせや、新規開店の時期を訪ねる一般客もいるという。粟国組合長や市場の組合役員も、体験交流や市場の歴史を紹介する展示などの取り組みを構想するなど、新しい施設の活用に期待を膨らませている。
粟国組合長は「戦後の闇市から始まった沖縄の歴史が詰まった市場。モノを売るだけではなく、地元住民や観光客、人と人をつなぐ市場として、戦後50年を経た節目でのスタートに、マチグワーの新たな歴史を刻んでいきたい」と意欲を見せた。
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