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「みんな食べて飲んでいつも通り」 台湾の人々は“有事”をどう感じる? 現地を訪れた記者がルポ〈東アジアの沖縄 第1部「有事」への眼 プロローグ〉


この記事を書いた人 Avatar photo 中村 万里子

 “台湾有事”を巡り、沖縄周辺で軍備強化が進む状況に、沖縄では懸念が強まっている。連載「東アジアの沖縄」では、政治に翻弄されてきた人々に話を聞きながら、東アジアに生きる人々の目線から歴史や交流をひもとき、未来を探っていく。渦中に置かれる台湾の市井の人々は、「有事」をどう感じているのだろうか。連載のプロローグとして、現地を訪ねた記者がルポする。

アジアや欧米などさまざまな国の観光客や地元の人でにぎわう寧夏夜市=3月20日、台湾の台北市

 3月下旬の週末の土曜日の夜、台湾・台北市にある寧夏夜市(ねいかよいち)は地元の人や観光客でごった返していた。目当ての屋台に行列をつくり、乾麺や肉を頬張る。家族連れや若者が輪投げやゲームに興じる姿も。“台湾有事”の危機感とかけ離れた平穏な日常があった。

 市場で宝くじを売っていた女性に尋ねると「台湾と中国は戦争にならない。周りを見てください。みんな食べて飲んでいつも通りだよ」と気に留めていない様子。

 友人と歩いていた30歳の女性は「深くは知らないが、武力侵攻の可能性は低く、近いうちにはない。中国と台湾は海を隔てているのでロシアとウクライナとも違う。中国が台湾に起こす『戦争』は金融や情報での戦いだろう」と話す。

 台湾の人々は軍事的威嚇を受け続けてきたとし、「いまさら」と昨今の情勢を問題視しない声が多い一方で、市民の間で救護法などを学ぶ「民間防衛」講座も広がりを見せる。

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 台湾総統府直轄の最高学術研究機関の台湾中央研究院で、戦争認識や市民社会について研究する汪宏倫(ワンホンルエン)社会学研究所副所長は、2022年に研究所が行った世論調査を踏まえ、「大多数の人は近い将来戦争が来ると思っていない。中国大陸政府を敵と見ている人も割に少ない」と話す。

 汪さんは戦争を回避するため、市民社会がそれぞれの政府に働き掛けることや、市民の連携が重要だという考えも示した。

 台湾には日米同盟で中国を抑止する必要があると考える人もいる。一方、中央研究院の呉叡人(ウールウェイレン)台湾史研究所副研究員は、21年に出した著書で米軍基地が集中する沖縄に触れ、台湾のために「沖縄を犠牲にしてはならない」と記した。戦後の政治弾圧を体験した台湾では、基地負担に苦しむ沖縄に同情を寄せる人も少なくないとし「台湾と沖縄の社会レベルでもっと深い対話をすべきだ」と提案する。中国との間でも「沖縄は昔から歴史的なつながりもある。沖縄ならではの対話ができるんじゃないか」と促す。

(中村万里子、呉俐君)

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第1部では、沖縄と関わりのある台湾や中国の人に思いを聞く。

 


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