琉球新報は2021年の県内十大ニュースを選定した。東京五輪・パラリンピックで県勢は目覚ましい活躍を見せた。空手形の喜友名諒、野球の平良海馬が県勢初となる金メダルに輝いた。レスリングの屋比久翔平が胴メダルを獲得し、県民は喜びに沸いた。一方、新型コロナウイルスは、昨年に引き続き猛威を振るい、感染者数は一時期、人口割りで世界最悪水準に。琉球新報の記事と写真で振り返る。
【1】東京五輪 県勢初の金/8競技10人活躍、パラでは銅
東京五輪に県勢は8競技に10人が出場した。空手形で喜友名諒が初代王者となり、平良海馬のいる野球の侍ジャパンが頂点に立つなど、県勢初の金二つを含む3個のメダルを手にした。銅はレスリンググレコローマンスタイルの屋比久翔平が獲得した。東京パラリンピックでは4大会連続出場した陸上車いすの上与那原寛和が2種目で銅を獲得。車いすマラソンの喜納翼が初出場で7位に入賞した。
五輪、パラともに厳しい予選を勝ち抜き、代表入りを決めた県勢が、最大のスポーツの祭典で躍動する姿は県民に大きな感動を呼び起こした。
▼空手の絶対王者・喜友名諒を生んだ沖縄 「発祥の地」強さの秘密は
▼「いつでも優勝できる」 絶対王者の強さを支える「命懸けの稽古」
沖縄発祥の空手が初採用された大会で、国内、世界で勝ち続けている喜友名が王者の貫禄を発揮。侍ジャパンは無敗で優勝し、平良も貢献した。
重量挙げでは糸数陽一が4位、宮本昌典が7位で入賞を果たし、沖縄のお家芸で存在感を発揮した。自転車ロードの新城幸也は3大会連続の完走。走り幅跳びの津波響樹は県勢として49年ぶりの陸上代表として出場を果たした。
ハンドボールには東江雄斗と池原綾香が出場。“王国”浦添出身の2人が代表チームの柱としてプレーする姿は、沖縄の若きハンドボーラーの目に焼き付けられた。
カヌースプリントカナディアンには當銘孝仁が出場した。
▼東京五輪、沖縄県勢は最多「メダル3」喜友名と平良が金、屋比久が銅
【2】コロナ感染状況「世界最悪」/緊急宣言4ヵ月、経済大打撃
新型コロナウイルスは、2020年に続き21年も沖縄で猛威を振るった。昨年から今年2月末までの感染「第3波」、3月から9月末までの「第4波」「第5波」が立て続けに襲来。「デルタ株」に置き換えが進んだ5波では8月25日に1日当たりの新規感染者数が最も多い809人となり、医療体制はひっ迫した。県内の感染状況は「世界最悪」レベルに達した。
今年は10月末までのほとんどの期間で、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置など人流を抑制する措置が講じられた。飲食店への休業要請が5月23日から9月30日まで約4カ月続いたのをはじめ、大型商業施設の営業時間短縮要請も実施され、経済活動は縮小した。
観光業では、21年度上半期の入域観光客数が136万4200人となり、新型コロナ前の19年度同期と比べると74.5%減だった。
うるま市の老年精神科病院・うるま記念病院では、国内最大級のクラスター(感染者集団)が発生し71人が亡くなるなど、医療機関でのクラスターも相次いだ。
11月以降は新規感染者がゼロの日もあるなど感染状況は落ち着きを見せた。一方、12月17日に変異株の「オミクロン株」が米軍キャンプ・ハンセンの従業員に初確認された。ハンセンでは12月初旬に米国から来沖した米海兵隊員のクラスターも発生。変異株の広がりを警戒しながら、年を越すことになる。
【3】沖縄・奄美、世界自然遺産に登録
世界的にも希少な亜熱帯の森が広がる沖縄島北部、西表島と奄美大島、徳之島が7月、世界自然遺産に登録された。それぞれの島で独自の進化を遂げた豊かな生物多様性の価値が世界的に認められた。今後は世界の注目の下「極めて重要な生息地」とされた地域の保全を進める必要がある。
国内候補地に選ばれた2003年以降、国は対象地域を国立公園に指定し、地域では外来種対策を進めるなどした。18年には内容の見直しを求める国際自然保護連合(IUCN)の登録延期勧告、20年にはコロナ禍での延期もあった。18年かけて実現した。国内5件目の登録で、国内の登録は今回が最後となる見込み。
世界遺産委員会は、この自然を守っていくための観光管理や交通事故対策などを求めている。これ以外にも隣接する米軍北部訓練場からの廃棄物など、保全のための課題は多い。
【4】辺野古設計変更を不承認
米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、玉城デニー知事は11月25日、沖縄防衛局が申請していた埋め立て工事の設計変更を不承認にした。 防衛局は大浦湾側の埋め立て予定区域にある軟弱地盤改良などのため昨年4月に設計変更を申請し、県が審査していた。玉城知事は軟弱地盤の調査不足や環境保全への不備を不承認の根拠に挙げ、「土地利用が可能となるまで不確実性が生じており、普天間飛行場の危険性の早期除去につながらない」と指摘した。
これに対し防衛省は12月7日、「埋め立て事業阻止を目的とし、行政権の著しい乱用で違法」などと主張し、県の不承認の取り消しを求め、国土交通相に行政不服審査法に基づく審査を請求した。今後、国と県の間で法廷闘争に発展する公算が大きい。
【5】軽石大量漂着、広範囲に影響
沖縄本島から1400キロ離れた小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」が8月中旬に噴火し、10月中旬から大量の軽石が県内各地に漂着し始めた。
12月1日時点で漂着があった市町村は、海に面しない南風原町を除く県内全市町村に及んだ。各地で海面を漂う軽石が船のエンジンに入り込み故障するなどして、漁船や離島との定期船が航行不能となった。
県町村会や市町村は、軽石の撤去、漁業や観光の事業者への補償を求める要請や意見書を相次いで提出した。県議会は11月、補正予算で対策費27億4909万円を可決した。主に国の補助金を活用し、県負担は4億5483万円を見込む。国は沖縄と鹿児島両県で184億円を財政支援する。 軽石のため出漁できず水揚げ量が減ったところに、原油価格高騰などが追い打ちをかけ、県産マグロが高騰するなどの影響も出た。
【6】PFAS流出、基地から相次ぐ
在沖米軍基地や自衛隊基地から有機フッ素化合物(PFAS)を含む汚染水の流出が相次いだ。
2月26日に航空自衛隊那覇基地内で配管が破裂し、民間地域まで泡消火剤が飛び散った。空自は当初、PFOS(ピーフォス)の含有を否定していたが、琉球新報が泡を採取して調査したところ含有が判明した。
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6月10日にはうるま市にある米陸軍貯油施設で、雨水によってあふれ出た泡消火剤を含む汚染水が民間地域に流出した。
在沖米海兵隊は8月26日、宜野湾市の普天間飛行場内で貯蔵していた汚染水を公共下水道に放出した。県や国が中止を求めていたが、米軍は同意もないまま放出を強行した。
【7】総選挙 オール沖縄と自公分け
第49回衆院選が10月31日に投開票され、県内4選挙区は辺野古新基地建設の中止を掲げる「オール沖縄」が2勝、国政与党の自民候補が2勝と議席を分け合った。オール沖縄は3区で敗北して改選前から1議席減らす形となり、玉城デニー知事には痛手となった。
1区は赤嶺政賢氏(共産)、2区は新垣邦男氏(社民)、3区は島尻安伊子氏(自民)、4区は西銘恒三郎氏(自民)が当選した。
比例代表は、九州ブロックに単独出馬した金城泰邦氏(公明)が初当選し、国場幸之助氏、宮崎政久氏(ともに自民)も比例復活した。
【8】部活顧問叱責で高校生自殺
コザ高校2年(当時)の男子生徒が1月、部活動の顧問から執拗(しつよう)な叱責(しっせき)を受けて自殺した。県教育委員会は7月、「当該職員の不適切な指導が継続的に繰り返され、精神的負担が累積した結果」と判断し、顧問だった男性教諭を懲戒免職処分した。
県はその後、県教委が設置した第三者調査チームによる調査は不十分と訴える遺族の意向を受け、知事部局を事務局とした第三者調査委員会の発足を決定。2022年1月ごろに、第1回の委員会が開催される。
自死の背景に何があったのか、再び調査が始まる。
【9】南部土砂、使用反対広がる
沖縄戦戦没者の遺骨が残る本島南部での土砂採取を巡って、沖縄戦の遺族や多くの市町村議会が「戦没者への冒とくだ」として、辺野古埋め立てに使用しないよう声を上げた。反対の世論は県外にも広がっている。
世論を動かす原動力となった沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松代表らは全国1743の県議会・市町村議会へ、意見書可決を促す要望書を送った。支援者によると12月15日までに、県内では27議会、県外では少なくとも120の地方議会が意見書を可決した
【10】自衛隊先島配備進む
防衛省は中国を念頭にした「防衛力強化」として、南西諸島における自衛隊配備を加速させた。11月、宮古島駐屯地に地対艦、地対空ミサイルの弾薬を搬入した。同月、石垣島では民間港が初めて自衛隊演習に使用された。同省は石垣でも基地建設を進めている。
宮古島へのミサイル搬入は輸送経路や弾薬量など詳細は住民に説明しないまま踏み切った。海自の輸送艦で運ばれた車両15台分の弾薬が島に持ち込まれた。
石垣島などで行われた演習は全国で陸海空3万人規模の訓練。石垣港や中城港新港など県内民間港が初めて自衛隊訓練に使われた。
【次点】琉球舞踊初の人間国宝、女性も初
国指定重要無形文化財「琉球舞踊立方」(各個認定)保持者=人間国宝=に、琉球舞踊真踊流の宮城幸子さん(88)=那覇市辻、名護市出身=と琉球舞踊重踊流の志田房子さん(84)=東京都練馬区、那覇市出身=が認定された。琉球舞踊の分野からの人間国宝誕生は初。琉球芸能の分野からの女性の認定も初で、女性実演家の背中を押す快事となった。
宮城さんは「琉舞と共に方言(しまくとぅば)も伝えていきたい」と話した。
志田さんは「先生たちから受け継いだ教えを伝えていきたい」と力を込めた。
▼【写真と動画】人間国宝への足跡 宮城幸子さん、志田房子さん